インドの路上で感じた、「変化の途中」という風景
インドを旅していると、息をのむほど美しい自然や街の色彩に心を奪われる一方で、
道ばたに積もるゴミの多さに驚くことがあります。
「どうしてこんなに落ちているんだろう?」
少し不思議を感じて“背景を知りたい”という素朴な疑問が浮かびました。
というのも、公共の施設内では見かけることがほとんど無かったからです。
インドに行ってきたと話すと、よく似た質問をされることがあります。
たしかに頷ける部分もあるけれど、実際に見た景色はもう少し複雑でした。
1.街で起きている変化
ここ30〜40年でインドは、経済成長とともに生活様式が大きく変わりました。
日用品や加工食品が手に入りやすくなり、プラスチック包装が一気に普及し、さらに都市部には地方から多くの人が流入しました。こうした消費の拡大と都市人口の急増が、短期間のうちに同時に起こりました。
一方で、ゴミ回収のインフラや分別ルール、市民への教育といった社会的な仕組みは、その変化のスピードに十分とは言えない状況にあるようです。
つまり、現代的なゴミが、昔ながらの生活構造の中に一気に流れ込んだという状態なのです。
2.もともと「捨てても問題がなかった」文化
もう一つ、とても大切な背景があります。
インドの伝統的な生活では、使われていた道具や生活資材の多くが自然素材でした。食事にはバナナの葉が皿として使われ、灰や土は生活の一部として循環し、紙よりも布が重宝されてきました。
食べ残しもまた動物や土に還り、環境の中で循環していた暮らしに近かったように思います。
そのため、「ゴミを厳密に管理する」という発想自体が、長い歴史の中ではあまり必要とされてこなかったのかもしれません。
ところが、 そこにプラスチックや化学素材が大量に入り込んだ。
価値観はそのまま、 素材だけ変わってしまったことが、今の状況につながっているのかもしれません。
3.乾燥した気候が“目立たせてしまう”
インドには乾燥した砂漠気候に近い地域も多く、雨が少なく湿度も低いため、土壌には微生物が育ちにくい環境があります。さらに風が強いため、捨てられたゴミは分解される前に風で飛ばされ、広い範囲に散らばってしまいます。
湿潤な地域なら目立たない量でも、砂漠では「ずっとそこに残り、視界に入り続ける」。
こうした地域で特に多く感じられるのは、気候条件も大きく影響しているかもしれません。
4.それでも「解決できない問題」ではない

ここで希望の話を。
インドにはすでに、 この問題を克服しつつある都市があります。
たとえば、 インドール。
この街では、行政による徹底したゴミ回収体制の整備に加え、市民が主体的に参加する清掃活動や、分かりやすい分別ルールの導入が進められてきました。その結果、インドールは「インドで最も清潔な都市」として高く評価され続けています。
つまり、インドの街は一様ではなく、「変化の進み具合」が場所によって大きく異なっているように感じました。
5.“資源”に変えるという発想
旅の途中で思い出したのが、 砂漠でゴミを活用して植物を育てる研究の話でした。
問題を「減らすべき負担」として捉えるのではなく、「循環に組み込める資源」として見直す発想です。
実はこの方向性は、 世界中で進められています。
実はインドではすでに、こうした考え方に基づく取り組みがいくつも始まっています。その一つが、プラスチックごみを建材として再利用する試みです。回収したプラスチックを細かく砕き、道路舗装用のアスファルトやレンガに混ぜることで、強度や耐久性を高める技術が実用化されつつあります。
単に廃棄するのではなく、都市インフラの一部として再利用することで、ゴミの削減と資材不足の両方に応えようとするアプローチです。特に都会を外れた乾燥地域では、生ゴミをコンポスト化して痩せた土壌に混ぜることで保水性を高めたり、牛糞と有機廃棄物を組み合わせてバイオガスを生み出すといった取り組みも考えられています。
ゴミを減らすだけでなく、土地を再生し、仕事を生み、景観を良くする。
問題を「厄介なもの」として遠ざけるのではなく、「次の循環の入り口」として捉え直す視点が、ここにはあります。
6.インドの未来を想像する
長い歴史の中で育まれてきた文化、経済発展のスピード、気候条件、そして社会構造が複雑に重なり合った結果として、今の風景があります。
そもそも、こういったことは、決してインドだけに限った話ではありません。公共空間と私的な空間をどう捉えるかという価値観の違いも、背景にあるのかもしれません。
日本もまた、高度経済成長期には街中にゴミが散乱し、公衆衛生や景観が大きな課題となっていた時代がありました。こうした変化は、日本に限らず、社会のあり方が大きく変わる過程で各地で起きてきたものです。
分別ルールの整備や回収体制の確立、学校教育や地域活動を通じた意識の変化などを、長い時間をかけて積み重ねてきた結果、今の「きれいな街並み」が形づくられています。
「なぜこうなったのか?」という背景を知ったことで、これから少しずつ変わっていくのだろうな、という景色が見えた気がしました。
7.おわりに
自然が取り込まれた町の美しさと課題が同時に存在するインド。
その両方を見つめながら理解し、少し先の未来を想像する。
強い日差しと広い空の下で、ゴミと緑化、そして変わろうとする動きが同時に見える国、インド。
これからどう変わっていくのか、また見に行けたらと思います。